悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「いや、わたしは一人で入るから! みんなではないからね。女性はね、男性とお風呂には入らないものなのよ!」

「えぇぇぇぇ~」
 わたしの剣幕にフェイルが心底がっかりした声を出す。

「せっかくリジーと一緒に温泉入れると思ったのに」
「無いから! そんな機会絶対に無いから!」

 子供だろうが竜だろうが男の子は駄目! 赤ちゃんならともかく、フェイルはもうちゃんとした男児だし。

「フェイルはお父さんと一緒だよ」
「わたしは? わたしは誰と一緒?」

 ファーナが両親の顔を交互に見る。

「あらぁ……そこのところはあんまり考えていなかったわねぇ。家族は一緒でいいのではないかしら」
「そうだねえ。我々は竜なわけだし」
「どうしてリジーは駄目なの?」

 フェイルはまだ納得できかねるらしい。

「人間の女の子はそういうものなんだよ」
「そういうものって?」

 ミゼルのざっくり過ぎる回答にフェイルが首をかしげるとファーナもつられて首を横に傾けた。
 まあ竜の子供に人間社会の倫理観を押し付けてもまだよくわからないか。

「人間はね、男女ともにおいそれと異性に裸を見せないのよ。そういう決まりなの」
 わたしは人差し指をつき出してしたり顔で説明をした。

「絶対に?」
「……ええと」

 絶対でもないのがこれまた微妙に難しいところだな。
 って子供相手に大人のあれやこれを説明できるか!

「いいか、フェイル。人間は夫婦になったら何をしてもいい―」
「なんてこと言っているのよ! ばか」

 わたしはレイルの頭をぽかっと叩いた。
 子供相手になんてことを言いだすの、この男は。

「痛って。俺はだな、フェイルに人間社会のあれやこれを」
「教えていいことと悪いことがあるのよっ」
「こう見えてフェイルもファーナもいい年だぞ」
「竜にしてみたらまだまだ可愛いひよっこよ」
「わかったって」

 レイルが降参とばかりに両腕を軽く持ち上げる。

「と、とにかく。わたしは女性としか温泉には入りません。フェイルはレイルに遊んでもらいなさい」
 わたしの言葉にフェイルが少しだけしゅんとなる。

「リジーは?」
「温泉以外なら遊んであげるから」
「フェイル、リジーを困らせるんじゃないよ」

 ミゼルもやんわりとした声を出す。
 フェイルはしばらくしてこくりと首を下に向けた。

「はあ……出発前から疲れるわ」
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