最悪な恋の落ち方

女性に見惚れてしまっていた草介は、男性の言葉で我にかえる。そして、女性に「何故動かしちゃダメなんですか？」と訊ねた。女性は男性の目と耳を指差し、淡々と話す。

「目と耳から出血がある。このことから見て、この人は脳挫傷を起こしている可能性がある。その場合、下手に動かすとこの人は確実に死ぬ。この人が死んだら誰がとどめを刺したのか調べられ、あんたたちは殺人犯として罪に問われるぞ」

「な、何なんだよあんた！さっきから偉そうに！」

男性が怒ったような口調で女性に言う。女性は「めんどくせぇな！」と毒を吐き、持っていたかばんの中から身分証を取り出した。その身分証に、多くの人たちの顔に希望が現れる。

「あたしの名前は伊黒明日菜（いぐろあすな）。××総合病院に勤務する医者だ。今からあたしの指示に従って動いてもらう。いいな？」

緊迫した空気の中、全員が頷く。明日菜は笑うことなく草介の方を向いた。

「お前、救急車を呼べ」

「えっ？」