モスキート
昨夜は月が明るい夜だった。
うだるような暑さ。
湿った重たい空気が身体中に纏わりつく不快な夜。
私たちは追いかけっこをしながら甘い会話を楽しんだ。
「俺達の命は短い。君に出会えて良かったよ・・・」
たくさん求愛された中から迷いなく彼を選んだ。
私たちは宿った命を育むためにはどこが安全か、どんな風に育てようか、夢を持って語り合った。
その数分後、愛する人は目の前で殺された。
アイツは私達の気配に気づいていた。
音を消し、動きを止め、五感を総動員して所在を探っていた。
きっと娯楽のひとつにすぎなかっただろう。
鼻唄を歌っていたから・・・
無邪気さと残忍さは背中合わせ、手中に入ったら最後、生きては帰れない。
瞬時にして体の原型は跡形もなくなる。
知っていたはずなのに、彼は飛び出した。
アイツの視線が私を捉えるその直前に・・・・・・
ピンと張った静けさの糸を断ち切った。体中で大きな音を鳴らし、注意をかっさらった。
そして、今私が生きている。
彼はいない。
< 1 / 3 >