僕らのお嬢
「で、なんでこんな点数なんですか?」

時は放課後。
ショウゴがいつもの調子で冷静に言う。
目の前には机に座らせられているお嬢と机の上には35点の数学のテストの答案用紙。

「今日の朝、自信満々だったじゃないですか」
「あぁ、そうだ。自信満々に言った」
「『伊集院家の跡取り娘、伊集院澄子だぞ』っておっしゃいましたよね」
「あぁ、言った。『伊集院家の跡取り娘、伊集院澄子だぞ』『この私が勉強しているわけないだろう』とな」

「明らかに違うだろ」

俺はすかさずつっこみを入れる。
「二言目は言ってねーぞ。いま付けたしだろ」
「何を言っている。ちゃんとあの時の言葉に含まれていた本当の意味を言ってるんだ」
「つまり、自信なかったんだな」

オレは呆れたようにため息をつく。まったくこの女は・・・。

「仕方ないだろう。数学は苦手なんだ」
お嬢は人差し指と中指で紙をつまみ、ぴらぴらとはためかせながら言う。

「だいたい、こんなの将来役に立たないだろう。使えるのは足し算と引き算とかけ算と割り算だ。それだけ覚えていれば十分だろう」
「そういう問題じゃないでしょう」

指でこめかみを押さえながら、ふぅっとショウゴが溜め息をする。

「お~ほっほっほっほっほ!!」
ふいに、後ろから聞き覚えのある高飛車な声が聞こえ、振り返るとお嬢は嫌そうな顔になった。
「げ・・・」
「聞きましたわよ!伊集院澄子!!数学のテスト35点ですってねぇ!!」

この金の縦ロールの髪をし、高らかに笑う女は『二階堂 カンナ』
いつもお嬢を敵視している、どっかの少女漫画にライバル役で登場しそうな女だ。

「次の跡取りがこーんな落ちこぼれだなんて、天下の伊集院も地に落ちますわねぇ」
「聞いたぞ、カンナ。数学のテスト34点だってな」
「な、なんでそれを!?」

カンナは大げさに後ずさりし、冷や汗を流す。
すると、お嬢は隣のカンナの席を指さし、机の上には34点のカンナの答案用紙。その光景を見てカンナは顔を青ざめさせる。

「なっ!?」
「私には及ばなかったようだな」

「いや、たったの一点だぞ」
ソウタがすかさずつっこみを入れる。

「お嬢、ランク大丈夫なのぉ?」
セイヤが心配そうに言う。

「大丈夫だ。追試に受かれば下がることはないだろう」
「あ~ら、本当ですの?」

カンナが嫌みったらしく言う。

「追試と言ってもあなたのその点数じゃ難しいですわよ?」
「私はお前とは違うからすぐに合格できる」
「あら、ワタクシだってこんなのすぐに合格できますわ」
「ふん・・・万年二位が偉そうに・・・」

お嬢が鼻を鳴らして笑うと、カンナはピクリと眉をあげる。

「あら、あなたのその席を奪っても構わないのなら、遠慮なくいただきますけど?」
「望むところだ」


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