知らない記憶

それは、何気ない日常の中で本当に何気なく始まった。


地方の田舎町にある、県立高校の教室

穏やかな昼時、聞こえて来る何気ない会話



「そう言えばさ、お前　ユズキヒナコ　って覚えてる？」
「・・・誰それ？知らねえわ」


教室の隅で交わされる何でもない会話に、僕は不思議な程に聞き入っていた。

「小学校の頃だよ、居ただろう？いっつもワンピース着ててさ、髪が長くてちょっと可愛い子でさ」
「・・・居たっけ？？そんな記憶に残るような可愛い子なんて」


地元の高校で、小・中・高校と同じ顔ぶれが多い学校だが、僕はそんな子のことを知らない・・・はずだった。


「特別可愛い子ってわけじゃないけどさ、お前覚えてない？小3くらいの頃にさ、川に落ちてそのまま死んじゃった子で」
「・・お前・・・それ何の話？？空想？俺とお前ずっと同じ学校だったよな？ぜんっぜん覚えてねぇわ」


僕の身体はガタガタ震えていた。
全然知らない筈のユズキヒナコが、僕の記憶の中に鮮明に現れたからだ。

気持ち悪い

白いワンピースを着た小学生のヒナコが、橋の欄干に引っかかった帽子を取ろうと身を乗り出し、そのままバランスを崩して川に落下する━━━

「颯太？どうした？？」

「ぁ・・ちょっと貧血かも、なんか気持ち悪くてさ」

「顔色悪いよ、保健室行く？先生に言っとく？」

「ぅん、頼む。」

震える脚で立ち上がると、僕はフラフラと保健室へ向かった。


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伊東　颯太
16歳
僕は、地方の県立高校へ通う平凡な高校生だ。
顔も、成績も、特別良くもないけど悪くもないと思う。

友達とワイワイ騒いで、平凡な大人になって、平凡な家庭を持って━━━
そんな風に、平和に、平凡に、ごく普通な人生を送れたらいいと思っていた。