君と私で、恋になるまで
「…お腹、すいた。」
時刻は既に21時半を過ぎていた。
オフィスを出ると、勿論陽は完全に落ちて夜の景色が眼前に広がる。
だけどこの時間でも、こもったような蒸し暑さはまだ残っていて、じわじわと私の体温を上げる感覚は、あまり心地の良いものではない。
ビアガーデンでは結局殆ど何も食べなかったし、どうしようかな、コンビニで何か買って帰ろうか。
オフィス街で行き交うスーツ姿の人々を、道の端で見つめていると、なんだか自分だけが取り残されているような錯覚が起こる。
「…まだみんないるのかな。」
瀬尾達のところへ今更戻るつもりは無いけど。
ざわざわと心が何かを囃し立ててくる感覚に導かれるように、私はスマホを開く。
《瀬尾、ビアガーデンまた付き合ってくれる?》
「な、何打ってんの…!!」
瀬尾とのメッセージのトーク画面で反射的にそう打ってしまった私は、慌てて消そうとした。
___だけど。
"本当はもっと、あの男に近付きたい。"
ついさっき保城さんの前で、自分に宣言したんじゃ無かった?
手が、震える。
これだけのことでも大き過ぎる勇気が必要な私は、本当に亜子の言う通りヘタレ以外の何者でもないのかも。
「、っ」
ふと、あのゆるりとした奴の笑顔を思い出した瞬間、私は右親指で【送信】ボタンを押した。