君と私で、恋になるまで
___私も、ちゃんと、言わなければ。
"ビアガーデンに、行きたかった訳じゃ無い。
瀬尾と居られたら、どこでも良いよ。"
「ビアガーデンじゃなくて良いよ。」
「え?」
「……梅水晶と、たこわさと、塩辛と、瀬尾が居れば良いよ。」
そんな決心をして紡いだはずの言葉は、脳内のイメージとは相当かけ離れていて「なんでそうなる!?」と自分が1番突っ込みたくなる。
ヘタレ、と亜子が突っ込んでくるのが目に浮かんだ。
居酒屋メニューに紛れ込んだ、ちっぽけ過ぎる私の本音に泣きたくなる。
そんな私のよく分からない発言に目の前の男は、一瞬瞳を大きく開いた気がしたけど、その後すぐに、ふと息を吐く。
「…俺、1番最後かよ。」
そして、そう言って楽しそうに笑う男は、優しく瞳を細めた。
「いつもの居酒屋なら、いつでも、今からでも付き合うけど?」
「い、今から?」
「枡川、さっきも殆ど食べてないだろ。」
瀬尾は思った以上にいつも周りを見ている。
もう調子を取り戻して、甘くゆるく笑ってそう言ってくる瀬尾に、私の心臓は素手で掴まれたかのようにぎゅう、と痛んだ。
「じゃあ行くか。」
軽く私を促して、前を歩く少しだけ猫背の気怠げな男の背中をじっと見つめる。
仕事を頑張ること。
もうちょっと、可愛い言葉で本音を伝えること。
まだまだヘタレな私は、その2つを新たに自分の中で宣言した。