君と私で、恋になるまで


そもそも、毎年恒例になっているこのイベントは、うちの会社の営業部隊が主体となって参加している。


販路も人脈も、自分の足で掴み取る。

その厳しさを営業の人間は痛いほど分かっているからこそ、こうして沢山のお客様に出会える可能性があるのは絶好の機会なのだ。


チラシ配りやブースでの呼びかけなど、人手は多ければ多いほど助かるので、新入社員時代はみんな駆り出されたりしてたけど。


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 "…え!!手伝ってくれるの!?"

"一日中は厳しいと思うけど。空いてる時間は行く。"

"…大丈夫?"

"ん?"

"……香月さんのとこのプロジェクト以外にも色々案件あるでしょう?"

俺も当日の展示会を手伝うと、プロジェクトの社内ミーティング後にパソコンを見ながら軽い調子で伝えてきた瀬尾に驚いた。

勿論とても嬉しいけど、無理して欲しいわけではない。そう思いながら尋ねると、男は形の良い瞳をこちらに向ける。

"……なに、3年目のおっさんは用無し?"

"へ?"

"新入社員の時のフレッシュさはとっくに置いてきたし、人手もう足りてる?"

"…瀬尾は1年目から既にフレッシュさ無かったよ。"

"うるさいわ。"

だけど、あの頃から気怠げなこの男のそばに居ると、いつだって心地よかった。それは言えそうにない。


"人手はいくらあっても助かる。本当にお願いしていいの?"

"俺の仕事のことは置いといて、枡川さんがどう思ってるか聞きたいですね。"

"……来てくれると、嬉しい。"


勇気を出したその答え。甘く微笑んで「了解。」と言うこの男は、もしかして私の思考なんてお見通しだったりする?

本当によく掴めない。だから、尚更ドキドキする。それをずっと、繰り返している。

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