君と私で、恋になるまで
「良いこと聞いたわー」と満足した亜子を見送って、いよいよイベントが始まって。
元々案内状を出していたクライアントや、配ったチラシを見て訪ねてくるお客様達に対応して話をしていると目まぐるしく1時間が過ぎた。
「あれ、瀬尾まだ帰って来てない?そろそろ交代の時間だけど。」
Tシャツのデザイナーである古淵が、私にそう声をかけてきた。
「ああ、確かにそうだね。」
会場を歩きつつ、うちのチラシを配っているであろうあの男には一応ブースに戻る時間は伝えた筈だけど。
「まさかでも、瀬尾が手伝ってくれるとはなー」
「…毎年来てくれるもんね。」
「なんでも面倒そうなくせに応援に来るなんて、これはもうなんか理由あると思って。」
右手を顎に当てて、その場で急に推理を語り始める古淵に視線を向ける。後ろで先輩が「古淵そこに立たれたらジャマ。」と冷たい声で言ってるのに彼はスルーだ。
「…理由…?」
「多分あいつ、俺のこと好きだよな?」
「………ん?」
ごくごく、真剣な顔で古淵が発した言葉に一瞬固まってしまった。
「いつも素っ気ないくせにさー、あいつなりの同期愛だと思うんだよね。いじらしくない?」
「古淵、多分それ瀬尾に聞かれたら殴られるよ。」
私がそう笑えば、古淵はケタケタと笑って「間違いないなー。」なんて軽く言う。
「だからさ、枡川も良かったな。」
「え、何が?」
「瀬尾は多分、枡川のことも好きだから安心しろ!」
「…!?」
「なんで驚いてんの?枡川も同期なんだから当たり前じゃん。」
「あ、そ、そうだね。」
良かったな、とか言うからびっくりした。そっちの話か。
私はとうとうこの同期で1番鈍感そうな古淵にさえ気持ちがだだ漏れなのかと心底動揺してしまった。
「いやー、まじで同期は最高。」
うんうん頷いて確かめるように1人呟いている古淵と先日、2人で残業をした時。
そういえばあの気怠い男は、心配して様子を見に来てくれた。古淵の単純な答えは、あながち間違いでは無いかもしれない。