君と私で、恋になるまで
“ちひろ。もしお前が松奈さんに会うのは怖くて避けたいとか、そういう気持ちばっかりじゃ無いなら。
担当チーム、入ってくれない?“
「え…?」
“あの時、まだ選定中だったし、忖度してると思われたくなくて、ちひろの知り合いだって下手に言えなかった。
何も松奈さんの言葉を遮られなくて情けなかったけど、ちひろの会社に依頼するって決めた後なら良いかなって。
松奈さんに「あの子と仕事するの、面白いと思いますよ」って言っちゃった。渋々、頷いてたよ。“
……言っちゃった、て。
「何故、ハードルを上げるの。」
“お前は面白いから大丈夫。
あの凝り固まった古臭い頭のおじさんに、ギャフンと言わせてみて欲しい。“
何が大丈夫なのだろう。
しかもクライアントになんて言い方なんだ。
それでも、昔と変わらない明朗な声で伝えてくる一樹の言葉に、私は表情が和らぐ。
あの時、直接的な否定に体は金縛りにあってしまったかのように硬直した。
でも。
_____うちのリーダーは
どんな仕事にも丁寧だって、
俺たちは呆れるくらい分かってる___
ヘンテコなTシャツで見つけてくれたあの気怠げな男は、そう言ってくれた。
私はそれだけで、背筋がピン、と伸びたような気がしたのだ。瀬尾の言葉はシンプルだけど、いつもそうやって支えてくれている。
チャンスがあるなら、頑張ってみたい。
私はそう思い、一樹からの提案を承諾した。