君と私で、恋になるまで
「なんかアンニュイで雰囲気あるよね〜〜という間違った印象により、あの男に対しての同期女子達の惚けた顔。」
入社した時から、瀬尾は女子の間で格好いいとよく話題になっていた。
気怠い雰囲気の中で甘くゆるい笑顔を見せられたら、それはまあ当然のことなのかもしれない。
ライバルは、決して保城さんだけじゃない。
「…確かに、戦場だと思いました。」
「分かれば宜しい。
席替えしたら、ちゃんと隣キープすること。」
「…し、承知しました。」
まじで手がかかるわ、と肩を竦める亜子は日に日に鬼教官ぶりが増している。
「……あ、枡川!聞いたぞ!」
そう思ったタイミングで、目の前にいそいそとやって来た古淵が、そんな風に元気に声を出す。
「え、何を…?」
「△社のオフィス移転、担当するんだろ?」
嬉しそうに自分のビールジョッキを持ってそのまま正面に座る古淵に、私は驚いて目を白黒させた。
「もう知ってるの?」
「うん、今日部長に報告してるの聞こえてた。おめでとう。」
「…まだ何もおめでとうじゃないよ。」
嬉しそうにそう言葉をかけてくる古淵に曖昧に微笑む。
何なら、此処からがきっと大変だ。
△社の松奈さんに、担当だと認めてもらえるかどうか。それは容易いことでは無いだろうと思う。
「それ、急に依頼されたの?」
「あ、ううん。先週のイベントで、私の知り合いが繋いでくれた案件だよ。」
説明しつつ、塩加減がちょっと薄めの枝豆に手を伸ばそうとした瞬間だった。
「あ!!もしかして、あの爽やかイケメン?!」
それはもう威勢の良い声で飛んできたそれに、枝豆へと向かっていた手は不自然に宙を泳いだ。