君と私で、恋になるまで
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「…△社の担当するってどういうこと?」
「え。」
お店から少し外れた場所で向き合った男は、気怠さの中で、瞳に鋭い光を宿していた。
“いつもと何か違う。“
その感覚に、体が固まってしまいそうになる。
「どういうことって…?」
「△社って、先週のイベントで枡川が動揺してた元凶なんじゃないの?」
「、」
やけに冷たい言い方をする目の前の男に、情けなく笑うしか無かった。
「……それなのに、わざわざ担当になるってどういうつもり?」
「さっきの古淵との会話、聞こえてた?」
「……」
眉間に皺を寄せたままの瀬尾は、私の問いかけにやはり反応はしなかったけれど、それが肯定を表してることは分かった。
「私あの日、女性の営業は困るって言われたんだ。
スタートラインにも立たせてもらえなくて、それが辛くて悔しかった。」
「だから、」
顔を歪めながら苛立ちのこもった声で呟いて一歩近づいた瀬尾は、私を至近距離でじ、とその綺麗な瞳の中に閉じ込めてくる。
その刹那、ふわっと夜風が穏やかながらも大きく吹いて私の髪が顔に無造作にかかる。
慌ててそれらを避けようと顔に近づけた私の右手を覆うように握って、
「わざわざ、また枡川が傷つく必要がある?」
そう、掠れた声で伝えてくる瀬尾に、体温は馬鹿みたいに上がる。