君と私で、恋になるまで
この男は、どういうつもりで私に触れるの。
「でも、明野さんも背中押してくれたし、その、」
急に触れた瀬尾の体温に痛いくらいはやる鼓動を感じながらも、何とか説明しようと絞り出す声の中で、1番言いたいこと。
___私が、頑張りたい理由。
それなのに、その理由を告げる前にあっさりと目の前の男は掴んでいた私の手を離した。
たったそれだけで、寂しいと思ってしまう自分がいる。
「……そういうことか。」
「…え?」
そのまま、視線を外してふ、と乾いた息を吐き出した気怠い様相の男をただ、見つめることしかできない。
瀬尾、そう何度も呼んできた筈の名前を口にすることさえ躊躇われた。
すると、不自然な苦い笑顔を見せた男は再び私を見る。
「明野さんに頼まれたから、引き受けたんだ?」
「え……?」
何を。
「___枡川。まだ、あの人が好き?」
何を、言ってるの。
突然告げられた言葉に、目を見張る。
その場に茫然と立ち竦んだ私は、まるで何かの呪いがかかったかのように動けない。
それなのに心臓の嫌な拍だけは鮮明に聞こえて、余計にその不整合が戸惑いを増幅させる。
「…それ以外で、自分からそんなリスク背負う理由がある?」
さっきから、瀬尾の言葉はこちらに尋ねて来ているようで、だけど全然私に答える隙を与えてくれない。
決定事項のような言葉に追いつくことで精一杯で。
△社への仕事に、怖さも不安もある。
あの時の言葉で傷付かなかったわけじゃない。
___だけどそれでも私が、頑張りたい理由。
あの日、迎えに来てくれた。
ううん、あの日だけじゃなくて。
何気なく、だけどいつだって助けてくれる瀬尾に、認めてもらえるような仕事をしたいから。
少し揶揄うような声色で呼んでくれる"リーダー"っていうその立場に、ちゃんと見合う自分で居たいから。
______瀬尾。
私、瀬尾のことばっかり考えてるんだよ。