君と私で、恋になるまで
episode07.
「不透明な心」
fin.
なんで、あんなに傷ついたくせに
まだ頑張ろうとすんの。
なんでそう、無鉄砲なの。
苛立ちの中で問いただした俺を前に、
彼女の口から出た名前。
ストン、と心に落ちるものがあった。
初めて涙を見た日も、
初めて居酒屋へ連れて行って
「恋愛は難しい」そう呟いた日も、
そして、この間のイベントでも。
枡川の中には、ずっとあの男が居る。
"瀬尾。あの日、どうして抱きしめてくれたの?"
好きだから。
それ以外にある筈が無い。
でも、それを言ったらこいつは困るに決まってる。
"あと、私は、"誰かが言うから"で、仕事を決めたりはしないよ。"
濡れた瞳と震える声で告げられた言葉に、体が動かなかった。
そんなこと、枡川と仕事をしていたら充分過ぎるほどに分かるのに、いかに冷たい伝え方をしたのかそこで実感する俺は本当に最低だ。
余裕が無くなって、あんな辛い顔をさせた。
同期で居るのはもうそろそろ無理だ、
今日は、それを言いたかった筈なのに。
「…そんな資格、俺が1番ねーよ。」
去って行った彼女を追うこともできず、ぽつんと落とされた言葉は夜の喧騒が簡単に奪っていった。