君と私で、恋になるまで
昨日、実は妙に寂しくなってふらりといつもの居酒屋へ寄った。
1人で行くのは初めてだな、そう思いつつ入った瞬間、アルバイトの男の子が目を丸くしつつ迎えてくれた。
「どしたんすか。」
よくシフトに入っていて、瀬尾と来ていた時も何度も会ったことのあるその彼は、見た目はもはや白に近い金髪だしチャラく見えるけど、人懐っこい。
「…何が?」
「なんかあったんすか?」
私が問いかけた筈なのに、ホクホクのおしぼりを渡しながらそう尋ねる彼に私も首を傾げる。
「…この間、あのダルそうなお兄さんも来てましたよ。」
「え、」
"ダルそうなお兄さん"で、その正体が一瞬で分かる。
驚いて顔を上げると、
「……女の人と2人で。」
そう言われて、頭にごん、と上から大きな隕石が落下してきたようなダメージを喰らう。
「どんまいっす。」
肩を落として俯く私に、バイト君は「1杯目、生ビールでいいですよね。」とサラサラ伝票に記入する。
そんな片手間で攻撃してくるのやめてほしい。
「…お兄さん趣味変わったんすか?えらい清楚つくりこんだ感じの女でしたよ。」
首をコテン、と傾げて聞いてくる彼はまた隕石を落とす。
「……容赦無いね。」
「どんまいっす。」
はは、と何故か少し楽しそうに笑った彼はそのままカウンターの方へ向かってしまった。
梅水晶と、たこわさと、塩辛。
いつものメニューで、なんなら「どんまいサービスっす」と悲し過ぎる慰めによって量は多め。
なのに全然、心は晴れない。
いつもなら絶対、もっとうきうき食べている。
"…お前、好きな食べ物変わんないな。"
目の前で頬杖をついて、ロートーンでそう呟きながらゆるく笑う、あの気怠い男の前で食べるのが1番美味しかったなんて。
こんなのもう、誰に伝えることもできないのに。