君と私で、恋になるまで
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「枡川さん。あんな色気の無い居酒屋でどうやって瀬尾さんを落とすつもりですか?」
「え!?」
隣を歩く彼女が、軽やかに投げかけてきた質問に驚いてそう声を上げた。
「…私ね。この間、告白しようと思って瀬尾さんをご飯に誘ったんです。」
前を向いたままそんな風に続ける彼女に、私は歩みを進めるので精一杯だった。
「お店はどこか予約するので、お話する時間もらえませんか。そう言ったら、"行きたい場所があるので、そこでも良いですか"って言われて。
期待しましたよ。瀬尾さんが自分から手配してくれるなんて、舞い上がるじゃないですか。
どんなお洒落なところに連れて行ってくれるんだろうって思いました。」
丁度お昼に差し掛かるこの時間は、社員証を首から提げた多くの人々が行き交う。
賑やかな雰囲気の中でも、決して大きくは無い彼女の声ははっきり耳に届いた。
「……そしたらあの居酒屋に連れて行かれました。」
「え。」
「敢えて、連れて行ったんだと思います。」
記憶を穏やかに手繰り寄せながら、こちらへ伝える彼女はクスクスと笑う。
"…保城さん。俺は、こういう場所が好きなんです。
お洒落なビアガーデンも、カタカナばかりの飲み物も、正直疎いし苦手です。
保城さんが望まれているような俺は、居ないと思いますよ。"
「…"そういう瀬尾さんだって、好きです。"
そうは言えませんでした。」