君と私で、恋になるまで
地下鉄に繋がる入り口に辿り着いて立ち止まった彼女は、私の目を真っ直ぐに見つめていた。
「枡川さん。私ね、本当は全然女らしく無いんですよ。
家じゃただの干物で、部屋もそんな綺麗じゃ無いし、缶ビールとサキイカがあれば幸せ。
…でも、職場の私はそうじゃ無い。おしとやかでお洒落な物が好きな自分を演じてます。
好きな人の前なら尚更。
可愛いって思われたいって、必死です。
その努力は当たり前だって思ってました。」
ふふ、と吐息をあそばせる彼女はやはり可愛らしいと思う。
「…だけど、私は"本当"を何も晒してないから。
それが例えば本心でも、瀬尾さんのそういう一面も好きです、なんて説得力が無いですよね。」
そう自分自身に仕舞い込むように呟いて、眉を下げる彼女から視線を晒さない。
「…私は勿論、保城さんについて知っていることの方が少ないとは思うのですが。
チームのサポート役として入っていただいてからずっと。作成いただいた資料の細やかな補足も、説明される時の質疑応答も、いつも会議がある時はきっと沢山準備して臨んでくださってるんだって、分かるんです。
そういう努力を、いつもしてくださる方だということは知っています。
…そ、それだけなんですけど。」
途切れることなく、なんなら熱を込めて言ってしまった言葉の終わりはなんとも締まらなかった。
目の前の彼女はクリクリの瞳を瞬かせて、
それから、やはりふふ、と吐息を漏らす。
「まーた、仕事の話にすり替えてます。」
「……は、本当ですね。すみません。」
「だけど、偽ってた中でも褒められると嬉しいものですね。」