君と私で、恋になるまで
微笑みながらそう言う彼女に、私も笑おうとした。
けれど。
「どうします、枡川さん。」
「え?」
「私、なんなら干物女の一面も使って、瀬尾さんにアプローチするかもしれないですよ?」
「…そ、それはまた斬新な…」
だけどそのギャップは、あの男に刺さり過ぎてしまうのでは無いだろうか。
「…あの居酒屋の、1番右奥の2人席。
私があの席を奪って良いんですか?」
「、」
この間1人で行った時、私はカウンターに座りたいとお願いした。
「それは、嫌、ですね…、」
理由は、たった一つ。
あの席では、あの男と一緒に、向かい合っていたい。
保城さんでも、他の人でも。
私は、席を譲りたく無い。
どれだけ引き返すことが出来ないくらい育ってしまった気持ちなのか、それを考えるだけで視界は滲む。
奴の中で、万年同期だったとして。
私には、やっぱりあの男は、
どうしようもなく好きな人なのだ。
忘れるなんて出来ないよ。
「だったら、その辛気臭い顔はなんとかしてください。」
自分の懲りない気持ちに観念した瞬間、可愛い声にそぐわない表現でそう言われて、思わず笑えた。