君と私で、恋になるまで
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''…保城さん。俺は、こういう場所が好きなんです。お洒落なビアガーデンも、カタカナばかりの飲み物も、正直疎いし苦手です。
保城さんが望まれているような俺は、居ないと思いますよ。"
カウンターで隣に座った瀬尾さんは、そう言って緩やかに笑う。
だけど、そういう自分は居ないから"諦めてくれ"
そう彼が伝えたいのだと言うことは分かってしまった。告白する前に、それはずるいよ。
もっと鈍感な女だったら、突っ走っていけたのかな。
「…瀬尾さんは、好きな人がいますか。」
「この店に来たら、梅水晶と、たこわさと、塩辛。
そればっかり頼む女が居るけど。
俺は、そいつと、あの席に座ってる時が1番好きかもしれない。」
慈しむような笑顔で、お店の右奥の2人席を指差してそう言う彼に私は溜息を吐いた。
「…なんですかその塩気の多いラインナップ。
そして瀬尾さんが案外、ヘタレだと言うことが分かりました。」
そんな顔で話すくせに、付き合ってないとかこの2人はどうなってるの?
だし巻き玉子を摘んで溜息を漏らすと、
「…うん。保城さんそういう感じの子だろうなって思ってた。」
頬杖をついて飄々と告げる瀬尾さんに、驚いて目を見開いてしまった。
私は外面を偽ってばかりだ。だから、瀬尾さんが本心を伝えてくれても、それを受け止める説得力は無い。
でも、この人は"私"に気付いていた。
全部ひっくるめて、私を遠ざける。
「……私じゃダメなんですよね。」
おっさんメニュー、私も好きですよ。
別にビアガーデンなんて行かなくたって、良い。
それを伝えても、この人は私を見たりはしない。
そんなの、もう完敗だ。
ごめん。俺、あいつにベタ惚れだから。」
知ってるよ。
「瀬尾さん、ビール飲んで良いですか。」
カルピスソーダなんて可愛いもの頼んでたけど、もう良いかな。
|ぐい、と飲み干してそう言うと楽しそうに笑って、傍にいた金髪の店員を呼んだ。
その笑顔に、まだ全然胸は痛むけど。
私は、案外、綺麗な顔してるくせに笑うと可愛くて、好きな人に奥手が過ぎるあのライバルのことも嫌いではないから困る。
…だからって私が完全に振られたことは、絶対わざわざ言ってやったりしないけど。
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