君と私で、恋になるまで
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保城さんに見送られ、自分の会社近くまで戻って来た。
何故だか、やけに身体も頭も重くて、「今日は歩きじゃないんですね」と笑う保城さんに曖昧に頷いて、帰りは電車を使った。
「…亜子、お待たせ。」
打ち合わせは午前中で終わるから、外で待ち合わせしてランチへ行こうと約束していた亜子をビルの前で見つけてそう声をかける。
麗しい顔を最大限に歪めてスマホを睨む彼女は、そのまま
「あたし決意したわ。」
と放つ。
「なにを?」
「あんたが合コンに行くことを。」
「…文脈おかしくない…?」
なんで亜子が勝手に決意するんだ。
突拍子もない発言にやはり頭がクラクラする。
「……あんなクソ男忘れて次いかないと。」
同期会の次の日、「同期から抜け出すのは厳しそう」そう頼りなく告げた私に、目を見開いた彼女は舌打ちして、それからもうずっとこの調子だ。
「…亜子、」
「なに。」
「亜子、私、忘れたく無い…、わすれられない。」
迫り上がる何かで、言葉がもつれそうだった。
声も震えて、咄嗟に俯く。
なんでだろう。
たった数日間会ってないだけなのに。
あの男に会いたくて、たまらない。
「……バカ。なんでそれ、本人に言わないの。」
盛大な溜息と共にそう言う亜子は、もう視線をスマホではなく私に向けていた。
「……、お、仰る通りで…」
「顔もそんな真っ赤にしてどんだけ天然記……」
また天然記念物って言うじゃん、と不満げに亜子を睨むと彼女の表情には驚きの色があって。
「…亜子?」
「あんた。顔、赤過ぎじゃない?」
「え?」
たしかに、亜子と合流してから顔が火照る感覚があるけどもうそれがあの男のせいなのかなんなのかよく分からない。判断力が鈍くなっている。
足早に近づいた亜子は、ばちん、と私のおでこに手を充てる。もう少し優しさをプラスしてくれないかな。