君と私で、恋になるまで
タクシーを降りた場所から私のマンションまでは徒歩3.4分ほど少し入り組んだ住宅街を歩かなければならない。
その間もまた、「お前どうやって運ぼうか」とゆるゆる告げてくる男を振り切るようにずんずん自力で進んだら当たり前のようにあっという間にマンションまで到着してしまった。
身体は変わらずだるいし、この男は本当になんなの。
「ど、どうぞ…」
「……お邪魔します。」
そうしてたどり着いた自分の部屋の玄関のドアを開けて、男を促す。
なんてことない1Kだけど、昨日やけにモヤモヤして寝付けなくて、夜な夜な掃除をして本当によかった。
まあそれでも凄く綺麗とは言えないかもしれないけど。
まさかモヤモヤの原因を招くことになるとは思わなかったな。
チラリ後ろを見ると、玄関で靴を脱いだ瀬尾がどこか所在なさげに立っていて、それだけでまた脈が速くなってしまう。
あんなにのらりくらり話してきたくせに、押し黙ってしまった男に、ぼうっとする身体にも微妙な沈黙による緊張感は徐々に伝わる。
「…お茶淹れるね。」
「あーお構いなく。
……いやちげーわ、アホか。早く寝てください。」
沈黙に耐えきれずそんな風に伝えた私に、瀬尾らしい突っ込みが飛んできて思わずへらりと笑えば、男も溜息と共に困ったように微笑んだ。