君と私で、恋になるまで
そんな風に言われることを全く予想していなかった私は、驚きの中で一心に瀬尾を見つめてしまった。
「今週元気無かったって。島谷と古淵が言ってた。」
「…え、」
亜子はともかく、古淵にもそんな風に思われていたのは驚いた。あの元気な男は、割と人の感情の機微を察する。
「作り置きとかも、ちゃんとしてるって前ムキになって言ってたのになんも食材無いし、あんまり食べてなかったんだろ。体調崩してるの絶対それも関係してるな。」
飲んでる時、確かに料理の話になってそんなことを伝えた気もする。
「…塩辛は常備してるけどねずっと。」
「話聞けや。」
私とこの男は、あの居酒屋で、
他愛もない沢山の話をしてきた。
私にはその全部が、大事だ。
「……枡川、」
「…なに?」
急に真面目なトーンで私の名前を呼ぶ男の眼差しから、逸らすことがもう出来ない。
「____月曜、ごめん。」
掠れた声がそう謝罪を告げて、私に届く。
「…っ、なんで…?」
そんな素振り、全然無かったのに。
今日現れてからずっと、いつもの調子で軽い冗談を言って、だけど結局助けてくれて。
_____それは、大事な"同期"だからでしょう?
「…△社の担当になるって聞いて、なんで傷つく方わざわざ選ぶのか、無理して引き受けたのかもって、不安になったのは嘘じゃ無い。
でも明野さんが関わってるって知って、一瞬、それが理由なのかって思った自分も居る。」
___"私は、"誰かが言うから"で、仕事を決めたりはしないよ。"___
「……お前がそんな風に私情を挟んだりしないって、仕事の内容をアホみたいにちゃんといつも見る奴だって、知ってるのに。
俺が、傷つけた。ごめん。」
いつものロートーンが真っ直ぐ繋ぐ言葉を、倦怠感に覆われた全身で受け止める。
アホみたいに、は要らなくない?そう言いたくなって言葉を紡ごうとしたその瞬間に、ぽろっと意図せず涙が頬を伝った。