君と私で、恋になるまで
焦ってすぐに拭うと、傍にしゃがんだままの男が息を呑んでそれを見つめるのが気配で伝わる。
「…、瀬尾の方が、アホだよ。」
「…それは、まじでそう。」
そんな素直な返答に思わず笑ってしまいたかった。
やはり涙は止まらなくて、自分がどういう感情の中にいるのかよく分からなくなってしまう。
「私が引き受けたの、明野さんとか関係無いよ。」
「……うん。」
「でも、理由はある。」
「…理由?」
「あのイベントの日、変なTシャツ着て追いかけて来てくれた瀬尾の励ましが、嬉しかった。
リーダーって呼んでくれる、その位置に見合う自分でいたいって思ったから、なのに…、」
「、」
堰き止められていたダムが、あっさりと決壊した。
自分の気持ちを伝えながらどんどん流れていく涙にそれを自覚していたけど、なんとか言葉を繋げる。
「…凹んだ時は梅水晶死ぬほど食べて良いって、瀬尾が言ったのに…っ、
頑張ってもやっぱりダメかもしれないけど、最初から"傷つく方を選ぶ"とか、そんな風にまだ決めないで…、」
瀬尾がいつもの気怠さで、ゆるく柔らかい笑顔で、見ていてくれるって思うだけできっと私は頑張れるから。
例えば、上手くいかなくても。
「まあ良いんじゃない」ってあの居酒屋で笑って欲しい。
「___ごめん、」
そこまで告げた直後、少し焦った声でまたそう謝った瀬尾は、ゴシゴシと涙を拭っていた私の左手の動きを止めるように握る。
自分より少しひんやりとした男の手の熱は簡単に伝染する。この男の温度まで心地いいと感じる自分がいる。
「…すごい謝るね。」
「当たり前だろ俺が悪いのに。必死だよ。」
眉を潜めて顰めっ面のままの瀬尾とは裏腹に、私は表情が緩む。