君と私で、恋になるまで
「変なTシャツはもう着ないけど、なんかあったらすぐ見つけに行く。梅水晶だっていくらでも付き合う。
ちゃんとお前が頑張ってるの見てるから、俺と、仲直りして。」
"仲直り"
その表現があまりに幼い子供みたいで、思わず声を出して笑えば、瀬尾は不服そうに目を細めた。
その拍子に、繋がれた手の指を絡ませてくる。
「…なんで今日会ってすぐ言ってくれなかったの。」
私を迎えにきてくれた時、あまりにいつもと変わらないその態度に、取るに足りないことだったんだと落ち込んだのに。
「…枡川が休める姿勢になってからちゃんと話そうと思って。」
この男は、本当にこういう所がズルいと思う。
「……ハーゲンダッツ全種類、冷凍庫に入ってるから。」
「え…?」
「あとお菓子とかもろもろ、キッチン横のパントリーの近くに置いてる。」
「……それをさっき買ってくれてたの…?」
「うん。仲直りのための賄賂。」
「何それ、」
あの大きなレジ袋の理由が漸く分かった。いくら聞いても無視を決め込んでいたタクシーでの男の意図に、するすると心が解けていく。
賄賂というチョイスに思わず笑えば、
「…言っただろ。俺はお前のことは必死だよ。」
そう言葉を落として、瀬尾も微笑みながらまた握る手に力を込める。それは私のドキドキを簡単に増幅させる行為でしか無い。
「……瀬尾。
同期が傷ついたからって、こんな風に触れられるのは、困る。心臓がもたない。」
胸が解放してくれと嘆くくらい締め付けられる。
握られた手に、思わず溢れた本音は、熱が出てるからだよって言い訳したいくらいに恥ずかしさでどうにかなりそう。