君と私で、恋になるまで
episode08.
「風邪っぴきと言い訳」
fin.
「___ちひろにはあんたみたいなクソヘタレじゃ無い好物件探すわ。合コンでも紹介でも。あの子引く手あまただから。」
火曜からの出張を終えて半ば無理やり朝一で新幹線にとび乗った俺は、オフィスで枡川を探す。
この1週間、あの同期会の枡川の顔を思い出せば自分への苛立ちと不甲斐なさで死にそうだった。
直接会って話そうと決めていた俺の背中に届いたのは、あまりに不機嫌で、そして聞き逃せない言葉たちで。
「…ちひろ、熱出てんの。午後休にしてもらえたから今から送って行く。」
「……俺に行かせて。」
俺を睨み付けながら、それでも教えてくれた島谷に伝えれば暫しの沈黙。
「…あんた、今度泣かせたからほんと息の根とめるから。」
「うん、俺も今度こんなことあったら死ねる。」
あんな顔させるのは、もうこれで最後にしたい。
正直に告げれば、島谷はドヘタレが、と呟きながらも笑った。
迎えに行った枡川は、顔が真っ赤で、瞳も潤みきって、自分の中で簡単に迫り上がる気持ちをなんとか殺した。
自分から言ったくせに、結局部屋の中まで招いてくれた彼女に「この女、無防備すぎじゃない?」と文句を言いたくなる。
「あのイベントの日、変なTシャツ着て追いかけて来てくれた瀬尾の励ましが、嬉しかった。
リーダーって呼んでくれる、その位置に見合う自分でいたいって思ったから、なのに…、」
漸く告げられた謝罪に対して、震える声で返ってきた言葉はあまりに胸が痛かった。
何で俺は、ほんとこんなにアホなんだろう。
お前が仕事を頑張る理由になるなら、いくらだって追いかけるし、居酒屋にも連れていく。
今日会った時からもうとっくに限界を迎えていた気持ちは、彼女に触れたいという欲を簡単に刺激する。
「同期が傷ついたからって、こんな風に触れられるのは、困る。心臓がもたない。」
それを枡川自身さえ刺激してくるのは、ずるい。
止められなくて、無防備なおでこに思わずキスを落とした。
瞳を瞬いて驚くその表情さえ可愛くて、思わず笑う。
自分が思う以上に、俺はこいつが好きだから。
それを伝えたい、そう思ってるけど。
でもその前に1つ、やることがある。
「…もうちょっと、待って。」
その後、思ったより直ぐに眠りの世界へと誘われた彼女を見つめる。
男らしく「伝えたいことがあるから待ってろ」なんて言えなくて苦しい言い訳でキスを誤魔化す自分のヘタレさに息を溢した。