君と私で、恋になるまで
◽︎
「ぬるいわ!!!!」
「!?」
いつもの外ランチ。
今日は、あんた一応病み上がりでしょうがと気を遣ってくれた亜子のチョイスにより、よく通っているうどん屋さんに来ている。
私の話を聞き終えた亜子は、割とでかい声でそう告げる。そのタイミングで、近くにいた店員さんがこちらを一瞥した。
違うんです、うどんは今日も熱々で美味しいです、と心で言いつつ不自然に微笑んでしまった。
何で私が焦らないといけないんだろうか。
「な、何がぬるいの。」
「あんたらに決まってんでしょ。」
「え…」
スルスルとカレーうどんをすすった亜子は、綺麗な所作で咀嚼を終えて、私を見て溜息を漏らす。
「…でも、仕事ちょっと落ち着いたらちゃんと告うつもりだよ、」
「仕事が落ち着くことなんかこの世であるわけ?
私は女同士の“落ち着いたらご飯いこ“は一生開催されないと思ってるから。」
「先生、何の話でしょうか…」
話が盛大にずれてしまっている。
「大体、妙齢の男女が同じ部屋にいて何も無いとかある?私のお膳立てを蔑ろにするとは…まじで恐ろしいわ。」
亜子のその言葉が届いた瞬間、私は冷えピタ事件を思い出してしまった。この部分だけは彼女にも話をしていない。
あれは本当、何だったんだろう。
さっき会話した時、瀬尾はあまりに通常運転すぎて、
もしかしてあの時点で夢だったのかとさえ思えて来た。
でも、おでこに触れたあの柔らかい感触を、ぼんやりと覚えている。
「柔らかいとか…!!!」
「は?」
いても立ってもいられなくなって思わず口に出してしまった。
目の前の亜子が死ぬほど怪訝そうな視線を向けてくる。顔が赤くなる予感に、私は何でもない、と呟いていつものきつねうどんを啜った。
「(これは、何かあったな…)」