君と私で、恋になるまで
◽︎
「まじでこの登り坂は何なの?」
「瀬尾、設計図のここの寸法これでちゃんと合ってるよね?」
「……歩きタブレット止めてくれませんか。」
午後、香月さんのオフィスへ向かうために瀬尾とオフィスを後にした。
最初に2人で歩いた時よりは少しは涼しい風も吹くようになって来たけど、まだまだ、特に午後のこの時間は日差しも強い。
やはり気怠い男はげんなりした顔で、途中にあるラスボスのように現れた登り坂に悪態を吐く。
でも、私はもはやそれどころでは無い。
今日は今後の資材や家具の搬入がスムーズに行くために、香月さんのオフィスで確認事項が沢山ある。
タブレットに映し出した設計図を睨みつけるように凝視していると、
「…うわ、!」
ぐ、と左腕を引かれてあっさりその方向へ身体が傾いた。
その瞬間に、気怠い男の纏う空気に私も触れるくらいの近さになる。
「な、何…!」
戸惑ってそう告げた瞬間、私の右隣を割とスピードの出た自転車が通り過ぎていった。
全然気づいてなかった…、
「自転車、来てましたけど。」
「……すいません。」
「歩きタブレットやめていただけますね。」
「…はい。」
奥二重の瞳が非難の色を乗せて、私を見下ろしていた。