君と私で、恋になるまで
◻︎
「___確認事項は以上ですね。
家具等を実際に搬入するのは勿論もう少し先ですが、最後に心配な部分もう一度寸法チェックをしていってもいいですか?」
打ち合わせを終えて、メジャーを出しながらそう尋ねると、香月さんはどうぞ、といつものように優しく笑ってくださる。
オフィスそのものを移転するわけではないので、勿論社員の皆さんが会社に出勤している状態で、部分に分けてリニューアル工事を進めていくことになる。
時間をかけ過ぎて負担を強いるわけにもいかず、工事以外の他の部分で何かタイムロスになるのは避けたい。
「72センチの、…」
リニューアルに該当する場所の壁の柱にメジャーを巻きつけて確認をしてると、カシャリ、背後からシャッター音が聞こえて従順に振り返ってしまった。
「………保城さん?」
「いつもお世話になってます。」
そこには、今日も今日とて可愛らしい笑顔を携えて立っている保城さんが居た。七分袖のブラウンベージュのワンピースに身を包んだ彼女はやはり隙がない。
彼女は、今日は瀬尾も参加している運営委員会の方の打ち合わせにかかりっきりだと香月さんに聞いたのだけれど。
「……今、写真撮りました?」
「撮りました。」
表情を変えることなく、さらりと認めた保城さんの両手に納まるのは、有名アパレルブランドのステッカーだけが挟まったシンプルなケースに入ったスマホ。
「……何故?」
「必死に寸法測られてる枡川さんの後ろ姿が妙に面白くて。」
相変わらずの愛らしい笑顔のままだけど、その発言はどうやら褒めてはいない。
確かに低い位置を測っていたからカエルみたいな足になっていたけれど。
「……悪用は、しないで欲しいです。」
「善処します。」
快諾してもらえなかった。