君と私で、恋になるまで



私は次のアポイントがあったので、まだ打ち合わせ中だった瀬尾を置いて、先に香月さんの会社を出てきた。


"…出演料は、後払いですかね。"

"うちへのお礼と相殺かもしれません。"

"保城、思ったより厚かましいよね。"

"……えっと、お2人ともなんのお話ですか?"


エントランスまで見送ってくださった香月さんと保城さんの楽しそうな会話にも、着いていけないままだった。


でも、最後には「リニューアル、社員一同楽しみにしてますので」と笑ってくれるクライアントを見てしまったら、もう他はどうでも良いかという気もしてくる。


思い出して、ふと表情が和らいだその瞬間スマホがメールの受信を知らせた。



"△社の松奈です。お世話になっております。

ご連絡いただいきました打ち合わせの件ですが、

【○/○ 金 14:30〜】

上記時間にてお願い致します。"




いよいよ、今週の金曜から△社との仕事が始まる。

向こうの窓口は、やはりイベントで出会った松奈さんだ。



初めて会った時に一応名刺は渡しているけど、メールの送信者が私だと分かっているのかは不明。

思わず、少しだけスマホを握る手に力がこもる。




仕事をしていたら。

自分に好意的な人とだけ向き合えることは、きっと当たり前に無い。

上手くいくか分からない。
もしかしたら、全然いかないかも。


不安なんて簡単に顔を出してしまう。




だけど、それでも頑張ってみたい。


よし、と小さく言葉をこぼして、次のアポイント先へと足を進めた。





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