君と私で、恋になるまで
「ど、ういうこと……?」
「瀬尾、ヘドバンされてるらしいんだよ。」
「……ヘドバン……?」
しくしくと今にも泣きそうな顔で、いやもはやちょっと泣いている状態で告げられた言葉を思わず聞き返す。
「…瀬尾ってハードな音楽好きだった?」
私は、音楽はサブスクの上位を独占しているアーティストばかり聴いてしまうミーハーだからよく分からないけど。
でも、あの気怠い男とヘドバンするようなハードロックは全く結びつかない。
「…枡川、何言ってんの!?」
「……絶対私のセリフだと思うけど、古淵は何を言ってるの?」
「凄い大手の企業から、瀬尾と働きたいって連絡来たらしいんだよ〜〜
前に、いつかは別の会社でも働きたいとか言ってたし、俺あいつ居なくなったらどうしたらいいの無理なんだけど!?」
「っ、」
ほら、やっぱり私のセリフだった。
「…古淵。それ、ヘッドハンティングでしょう。」
「え、何。略称じゃないの。」
やはり日本語が弱い同期をとりあえず置いておいて。
自分から告げたその答えに反芻を繰り返せば、心のざわつきは止まらなくなる。
"いつかは別の会社でも働きたい"
あの男が、此処から居なくなるかもしれないなんて。
私、今まで考えたことも無かった。