君と私で、恋になるまで
◻︎
「……居ない、」
ビルを抜け出して、視界に映り得る全てのカフェを覗いてみるも、あの気怠い男は見当たらない。
そもそも、探し方が無謀すぎる。でも立ち止まっていたくない。
連絡すれば良いのではとも思ったけど、それこそ打ち合わせの最中だったら申し訳ない。
見つけられたら、どれだけ時間がかかっても話が出来るまで待っているくらいの気概だ。
もう少し、駅に近づいてみようか。
秋に向かう乾風が、自分の近くを軽やかに走る。
それを勝手に追い風にして、彷徨って必要以上にウロウロしてしまう足どりの行方を決めて一歩踏み出そうとした時だった。
「_______枡川?」
「っ、」
ロートーンボイスが背中に届いて、従順に私は振り返る。
いつものようにグレーのジャケットを左手で持って勝手に服装にラフさを作り出す男は、相変わらず気怠い雰囲気の中で、私を涼しい目元で射抜く。
「…瀬尾。」
「何してんの、昼休み?」
「……うん。そっちこそ何処にいたの。」
「え。時間余ったから、コンビニのイートインスペースでコーヒー飲んでた。」
「……スタバとかに居てよそこは。」
「え、なんで。」
「瀬尾みが無い。」
「…それ本当意味わかんねーわ。」
クスリと笑って楽しそうなその笑顔に、胸が締め付けられる。
私はどうやって今まで、
この男への気持ちを抑えられてたんだろう。
今はもう、それが分からない。