君と私で、恋になるまで
きょとん、とした無防備な顔が珍しくて可愛いと思ってしまった自分を振り切って、私は急いで言葉を繋げる。
「だって、ヘッドハンティングされたって古淵が、」
「………嗚呼、なるほど。
あいつは相変わらずアホだな。」
「え?」
瀬尾は、私の背中へ回した片手はそのまま、それ以上距離を離すことはなく見下ろして甘く微笑む。
「確かに、一緒に働きたいって連絡きたよ。」
「、そうなんだ…、」
「今度、共同プロジェクトやりませんかって話な。」
「え…?」
「前に手伝った展示会で挨拶したコンサルの企業が、うちのオフィスづくりに興味持って連絡くれた。
働き方改革に向けた企業への提案で何かご一緒できないですか?だって。」
「……」
さらさらといつものロートーンが告げる言葉に、今度は私が目を瞬く。
気怠い男は、それさえもゆるく笑ってお構いなしに説明を続けた。
「部長が今日でかい声で、"一緒に働きたいって言われるなんて凄い"って言ってたの、古淵も聞いてたんだろうな。
……そもそも、ヘッドハンティングされた部下を上司が褒めるわけ無いだろ。」
「……た、たしかに…」
じゃあ、何。
私は古淵の勘違いを、まんまと信じてしまったの。
あのヘドバン男…!と叫びたかったけど、私もすぐに信じて突っ走って、相当余裕が無かったんだな、とも思う。
「まだ顔合わせした程度だけど、これから多分仕事も増えるし、俺はまだこの会社を辞めたりはしないと思うけど?」
にこりと微笑んでそう言う男は、絶対に私の反応を面白がっていると分かる。
「……それは良かったです。」
「俺の傍は、譲りたく無いの?」
「……」
先程の私の言葉をわざわざ繰り返してくる瀬尾を少し睨むけど、のらりくらりと避けてくれるこの男にはそんなものは効かない。
「譲りたく無いよ。
同期としても、お、男の人としても、
瀬尾が好きなんだから。」
私にはもう、そこは切り離せない。
この人と重ねてきた、全ての時間が愛しい。