君と私で、恋になるまで
「……古淵のアホさも、たまには役に立つな。」
ぽつり、呟かれた言葉に思わず笑ってしまう。
そして「古淵が泣くよ」そう言おうとしたのに。
背中に添えられていた手が、いつの間にか私の後頭部にするりと移動していて。
髪を撫でるように触れるその仕草に、身体がまた硬直してしまうと思った時には目の前は影で覆われた。
その理由を探す時間なんて無くて、代わりに唇に優しい熱が降る。
静かに共有されたそれを暫くしてから離した気怠い男は、至近距離で艶やかに微笑んだ。
「……や、」
「?」
「やってくれたね……、」
「どんな感想だよ。」
ついさっきのことを振り返れば、簡単にカアアアっと顔の温度が上昇した。
私の発言に、耐えきれないとばかりに吹き出して笑う瀬尾を見つめることしかできない。
ゆるく、柔らかく笑う癖に、私と視線を絡ませるその奥二重に鋭い光を宿すから、そのちぐはぐさに呆気なく心臓は煩くなる。
「俺の好きは、こういう好きだけど。
お前と合ってる?」
そっと私の頬に手を添えてそう伝えてくるけど、本当にその答え、分かってないのかな。揶揄われてるような気がする。
「……私の好きは、瀬尾にいつも触れたいとか、な、撫で回したいとか、そういうやつだから、合ってるんじゃない?」
もうどうにでもなれ、くらいの気持ちで正直に言った。流石に羞恥心で目線を合わせられず、下ばかり見てしまう私に、特に反応が無くて。
不思議に思って顔をあげれば、
「……え、」
口元を片手で覆って、少し不機嫌そうに視線を外す瀬尾がいた。
心なしか、顔も赤い気がする。
「…どうしたの。」
「お前こそなんなの、いつも触れたいとか急にやめて。
………あと撫で回すって何。」
嗚呼、これは照れている顔なんだと思ったら、だらしなく頬が緩んでいく。
そんな冷静に聞き返されても、私もうまく答えられないよ。手を伸ばしたいっていう、そういう衝動を私は瀬尾にだけ、ずっと前から抱えてる。
そう伝えて、いや、伝えきる前に今度は顔を少し傾けて、ちょっとだけ強引にキスしてくる気怠い男は、満足そうに笑った。
すぐにいつものペースに戻ってしまう瀬尾に、翻弄されているのは確実に私の方だとは思う。
それでも、ずっと傍で見ていたいと思うから。
___やっぱり私はとっくに、この恋の真ん中に居る。