君と私で、恋になるまで
瀬尾の"下手"という表現は本当にその通りだ。
負担をかけたく無い、でもいつも会いたい。
同じ想いを抱えてるくせに、
上手くそれを伝えられなかった。
「……私も会いたかったよ、」
「知ってる。」
「なに!!」
「島谷が、"会いた過ぎて死にそう"って言ってたって教えてくれた。」
「そ、そこまでは言ってない…」
あの女は、なんとも告げ口が早い。
顔に当然のように熱が集まっていく私を見て、「ふうん、残念。」と笑う男は、本当になんなんだろう。
ヘタレなのかそうじゃ無いのか、もうずっとドキドキしてしまうから、はっきりして欲しい。
『世の中、"彼女の特権"というものが存在します。』
ふと、今日のランチの時の亜子の言葉を思い出す。
特権は、こういう時に使っても良いのだろうか。
「……瀬尾、例えばしんどい日は、全然断ってくれても良いから。
会いたい時は、連絡しても良い?」
恐る恐る、その表現がぴったりな臆病な声色の言葉に、目の前の気怠い男はゆっくりと優しく、穏やかな夜風に呼応するように表情を解す。
「いつでも良いよ。」
そうしていつもの大好きなロートーンボイスで包んでくれた。