君と私で、恋になるまで
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「……あ、ちひろ。」
「あ!打ち合わせだったの?」
△社の本社ビルにアポイントの10分前に辿り着き、1階のエントランス前で資料を確認していた時だった。
背後から自分の名前が聞こえて、振り返るとそこには今日もパキッとしたスーツがよく似合う一樹が立っていた。
「うん。頭の硬い松奈さんとな。」
「!?こんなとこで何てことを…!!」
爽やかに笑って、当然社員の方も沢山出入りするエントランスでそんな言葉を投下する一樹に一瞬で、ぶわっと冷や汗が出た。
「なんで。お前も言ってただろ。」
「私は言ってないけど……!?」
予想外の濡れ衣を着せられてより一層焦った声で否定するのに、目の前の男はなんだか楽しそうだ。
「おめでと。」
「え?」
「さっき松奈さんが、この後枡川さんと打ち合わせですって言ってた。
あいつは面白いってハードル上げてたけど、流石ちひろはそれを越えてくるな、心配無かったわ。」
「……」
そう言えばこの人はうちの会社を推してくれた時、「あいつと仕事するの面白いと思う」なんてよく分からないハードルを上げてくれたのだった。
「あの人あんまり表情変わったりしないから分かりづらいけど、ちょっと楽しそうだった気がするけどな。」
「…本当?」
今日は、あの日の挨拶後、初めての打ち合わせの日だ。
"私を見る、でも駄目だと思ったら容赦無く切る。"
そう宣言されて、なんとか応えたいと今日も出来得る準備はしてきたつもりだけど。
やはり緊張はしてしまうな、そう思いながら手に持っていた資料をバッグに閉まっていると、
「俺もまた、ちひろの寸法の測り方見てみたいんだけど。」
「………」
さては松奈さんにあのリーフレットの写真を見せられたんだな、そう思い睨むのに一樹はやはり笑ったままだ。
「…で?」
「なに?」
「瀬尾さんとは、どうなった?」
「え!!!」
なんで一樹がピンポイントで瀬尾のことを尋ねてくるのか分からなくて、比較的大きな驚嘆の声をあげてしまった。
咄嗟に手で口を覆うけど、やはり目の前の男は愉快に笑っている。