君と私で、恋になるまで
一樹と瀬尾の接点は、あの展示会だけだと思う。
そういえば、私がジュースを溢してTシャツを洗いに行ってる時に、一樹は私に謝罪とお礼を伝えるためにブースまでまた会いに来てくれたんだっけ。
「…ど、どうなったとは?」
とりあえず惚けて話を逸らしてみよう、と決めてそう言う。
「……おめでとう?」
「え、なんで知ってるの!?」
「…あ、まじで?ちひろ、やるじゃん。」
「…………鎌かけたね?」
ちひろは甘いなあと、ケラケラ笑う一樹に私はぐうの音も出ない。
観念して肯定の溜息を漏らした。
「そんなに分かり易かった?
あの一瞬会っただけで私の好きな人が瀬尾だって気付かれたってことだよね。」
「まあお前は前から分かりやすいし、それに、」
「……それに?」
急に言葉を止めた一樹を不思議に思い促すと、彼は少し言葉を止めて逡巡し、
「いや、何でもない。」
そう言って笑った。
「…?」
「俺は名刺交換して、ちひろへの伝言頼んだだけだけど、瀬尾さんすごいイケメンだったなー」
「……さ、私そろそろ時間だからフロア向かうね。」
そうなんです、と私が言うのも変な気がして、半端に会話を終わらせてそう腕時計を不自然に確認する。
そんな様子にさえ楽しそうに白い歯を見せて笑う一樹に「じゃあね」と言って、エントランスへ歩き出した。
「ちひろ。」
「……?」
背後から呼ばれて振り返れば、やはり微笑んでる彼は口を開く。
「あの日、松奈さんとのことを伝えた時。
瀬尾さん俺にお礼言って、すぐお前を探しに走って行った。格好いいな、あの人。」
____"……泣いてるかと思った、"
あの時、私を見つけ出して強く腕を引いてくれた優しい熱を思い出して心がじんわりと温かくなる。
「……うん、凄く。」
惚気は良くないかなと思ったけど、あの気怠い男のことを思い出したら、今度はもう我慢したくなくなってしまった。
多分顔は絶対に赤いけどそう笑えば、一樹も同じように目を細めて「今度の飲み会で俺の惚気聞いてもらお。」と言った。