君と私で、恋になるまで
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「お疲れ。」
「あ、お疲れ様。」
オフィスのコーヒーメーカーの前でコーヒーが出来上がるのをぼうっと待っていると背後からロートーンボイスが聞こえてきた。
「休憩?」
「あ、うん、今外回りから帰ってきた。」
今日は内勤だけだったのか、そう問いかけて私の隣に立つ気怠い男は、プロジェクトチームで出かける時よりも一層ラフなスタイルだった。
モスグリーンのカットソーがよく似合ってて、なんだかそれを心で思った瞬間、胸がドキドキしてきてしまった。
慌てて視線を戻して、懸命にコーヒーが淹れ終わるのを見守る。
すると、
「疲れた?」
「…へ?」
急にそんな風に問いかけてくる奥二重の瞳と視線が絡む。
「…私?」
「うん。なんか間抜けな面白い顔してたから。」
「……間抜け…?」
もうちょっと良い言い方は無いんか、という意味を込めて目を細めれば、ふ、と息を溢して、丁度出来上がったコーヒーを私に手渡してくる。
「今日、△社との2回目の打ち合わせって言ってただろ。」
今度は自分のコーヒーカップをセットしながらそう告げられて、「そういえば昨日夜電話した時に私が言ったんだな」と心で思う。
「うん。松奈さんはツンデレだった今日も。」
「お前それ本人にまさか言って無いよな。」
「言わないよ…!」
焦って否定すれば、クスクスと楽しそうに笑う瀬尾にやっぱり胸が痛いほど脈を打っている。