君と私で、恋になるまで
「__お疲れ。」
そうして甘く目を細めてもう一度告げてくるから、もう心臓は大変だ。
もしかして最初から、そっちの意味の"お疲れ"だったのか。
私が△社から帰ってきたのに気付いて態々話しかけに来てくれたのかな、とちょっと自惚れてしまいそうになる。
「ごめん、私が昨日言ったから逆に心配かけたね。」
「…言われずに、暴走される方が怖いから。」
「ぼ、暴走…」
「枡川さんは前科あると思いますけどね。」
「……心当たりはあります。」
そう告げれば、男はやはり愉快に口角を上げる。
「……ちゃんと、次回もお願いしますって言われたよ。次はプロジェクトチームのみんなで行くと思う。」
「そう。」
自分のコーヒーも淹れ終えた瀬尾は、それを軽い手つきで持ち上げた。
そしてそのまま、じゃあ戻るわ、と告げて去る瀬尾の背中を見送って、私も自分の席へ戻ろうと足を踏み出そうとした時。
枡川、と馴染みすぎた声にそう呼ばれて従順に再び振り返った。
真っ直ぐにこちらを見る奥二重の瞳。
「これからもちゃんと教えて。」
「…何を?」
「んー、枡川が頑張るタイミング?」
問いかけた私に、そう軽く答えを告げる男はやはりロートーンボイスのままで。
「……全部?」
「うん。
心配も労いも毎回ちゃんと俺にさせてもらって良いですか?」
「……え、」
「彼氏なので。」
「っ、」
サラリと告げられたそれにカッと急速に絶対的に赤くなった私の顔を見て、瀬尾は吹き出した。
な、なんだこの人…!!
動揺でコーヒーを溢してしまうところだった。
「今日定時で頑張って上がって。」
「なんで!!」
照れを隠せず焦って語気が荒くなる私には特に構わず、男はゆるりと無茶振りを告げてきた。