君と私で、恋になるまで
「……お前は阿保だなって話。」
先程までの表情の緩みを仕舞った瀬尾は、またコーヒーを一口飲んでゆるりと告げる。
「瀬尾は今日も冷たいな…でも俺は好き。」
「無理。」
古淵は、瀬尾がヘッドハンティングを受けて辞めてしまうかもしれないという不安が誤解だったと知ってから、より一層愛が強まったらしい。
"……俺あいつのこと本当好きなんだなって実感した。"
と、遠くを見つめて何故か少しキメ顔で私にそう報告してきて、あの気怠い男に関するライバルの範囲が広すぎると困ってしまった程だ。
しかも、その前に誤解については私にも謝って欲しい。
「瀬尾!今日の夜、飯いこ!」
「無理。」
「がーん。」
構ってくれとご主人様に尻尾を振る古淵と、対照的に冷めた顔で気怠く立つ瀬尾の姿にふと、笑みが溢れた。なんだかんだ言ったって、仲良しなのも知っている。
先にそっと立ち去ろうと再びデスクの方へと足を向けると、「あ、俺枡川に用あったんだ!」と古淵の元気な声が飛んできた。
「なに?」
「あのさ、俺が担当してる得意先が新規事業のプロモーションを相談できるPR会社探してるんだよ。
それでさ、ほらあの、名前忘れたけど居るじゃん!枡川の大学の友達!」
「……明野さんのこと?」
「そう!あの爽やかイケメン!!紹介とかしてもらえたりしないかなあと思って。」
一樹のことは、流石に職場で名前で読んだことは無い。
それに古淵は、私の元彼だと言うことも知らない。
口を開いて言葉を発しようとした時、古淵の後ろで気怠く、だけどスラリとしたスタイルを保って立つ男とばっちり目が合ってしまった。
綺麗な奥二重の瞳に射抜かれてしまえば、簡単に鼓動はスピードを増す。
……あれ?
そういえば、瀬尾はどうして
一樹が私の元彼だって知ってたんだろう。