君と私で、恋になるまで
その後も結局、好きなものを聞こうとする私を掻い潜るようにして、誘導尋問を見事に決めてくる瀬尾に勝てず。
なんだか、私の好物ばかり食べてしまった気がするなあ、でも美味しかったなあ、と思いつつトイレから戻ると、既に気怠い男は私の鞄まで持って立ち上がっていて。
「あ、お会計はテーブルじゃなくてレジなの?」
「済んだ。」
「…え?」
絶対に間抜けな顔だったと思う。
だけど呆気にとられる間もなく、私の腕を引いてお店を出た男は、なんてことない声色で「はい」と私の鞄を手渡してきた。
受け取ったそれの中から慌てて出した財布を握りしめて、顰めっ面を浮かべる。
「どんな顔なのそれ。」
「…瀬尾さん。これはダメです。」
「何が。」
そうして、先ほどの会話に戻る。
いつもこの男と飲みに行く時は、お会計は交互に出したり、もはや回数を重ね過ぎて分からない時は割り勘したりしてきた。
今日は焼肉で、お金だって勿論それなりにかかってるわけで。
「今日は要らない。」
「なんで?」
決してお金を受け取ろうとはしない気怠い男に、そう尋ねてもやはりゆるく甘く瞳を細めるだけだった。
「…あのさ。俺は、お前の好きなおっさんメニューは知り尽くしてると思うけど、」
「………うん?」
それはそうだ、この人は、もう何も言わなくてもあの居酒屋で私が食べたいラインナップを難なく頼んでくれてしまう。
「その他はまだ、知らないから。
これからもちゃんと教えて。」
「…好きな食べ物、ってこと?」
「…まあそれだけじゃなくて、枡川さんのことはいろいろ知りたいですね。"彼氏なので。"」
「、」
この男は、本当になんなの。
「…今日それ、流行ってるの?」
「そうかも。」
視線をちょっと外しつつ、擽ったい笑い声で自身を納得させるような仕草にやっぱりまた心臓が掴まれて、苦しさまで持ち合わせる。
"彼氏だ"って言われる度に、胸が跳ねる私は相当浮かれてしまってるなあと思う。