君と私で、恋になるまで
「……瀬尾もちゃんと、教えてよ。」
「ん?」
「…焼肉、結局何が好きなのか教えてくれなかったし。」
「俺は何食べるかより、誰と食べるかを重視する派だから。」
「そ、そんなこと言われても騙されません。」
「騙して無いけど。なんか顔赤くない?」
「……」
のらりくらり、楽しそうにかわされる会話にいつも私が翻弄されてばかりだ。
それでも目の前の笑顔に絆されてしまう自分に、苦笑いを浮かべた時。
____プルルルル、
ジャケットの浅めのポケットから顔を出していた自分のスマホが着信を知らせていた。
【着信:古淵 洋介】と、
日本語の苦手な同期の名前が表示されている。
「…あ、古淵だ。」
「なんで?」
「明野さんの件かな。」
今日の古淵の、紹介して欲しいという話は、すぐに一樹にメールで報告した。
ぜひ話を聞きたいと返信が来たので、古淵の連絡先を教えておいたのだけど。
「なんかあったのかな、ちょっと出…」
ちょっと出てみるね、という言葉はいつの間にそんな近づいていたのか、気怠い男に間近で見下ろされていて、すっこんでしまう。
先程までゆるく柔らかく笑みを携えていたくせに、今は、切れ長の瞳がより鋭く形を変えて熱を孕んでいる。
その緩急、鼓動がどうしても速くなるからやめてほしい。
そして未だ鳴り続ける着信音をぴ、と軽く画面をタップして止めた瀬尾は、そのままポケットにスマホを戻してきて、宙を彷徨っていた私の手を取った。
「で、電話、切れちゃったよ。」
「うん。切ったから。」
「……古淵泣くよ。」
「本当に緊急だったら社用スマホでかけてくるだろ。」
確かに、それはそうなのだけど。
切られた!?と驚く古淵が脳内で浮かんで、だけど目の前の男に繋がれた右手の熱が、全ての思考をさらっていく。