君と私で、恋になるまで
顔が熱くて、恥ずかしくて、もう堪らない。
「……以上です。」
終わり方は決めてなくて、なんとも格好のつかない締めの言葉になった。
恐る恐る見上げると、私ほどでは無いけど、ちょっとだけ顔が赤い気がする気怠い男は瞳を優しく細めて、少し困ったように眉尻を下げた。
「……枡川。」
「はい?」
「今日まだ水曜だけど。」
「…うん?」
今週もやっと折り返しまで来た。
あと何度か踏ん張りをきかせて日々を頑張るしか無い。
「離せそうに無いので、連れて帰って良いですか。」
「……え、」
"良いですか"なんて、一応こちらに提案してくるくせに全然手の強さは緩めないまま優しい引力を伴って足を進めてしまう瀬尾に、私はついていくしか無い。
こちらからこの温度を手放す筈も無い。
簡単に私の心臓を囃し立ててしまうし、きっとそんなことこの男はお見通しだと思う。
…瀬尾の交渉は厄介で、ドキドキして、大変だ。
「瀬尾、営業も向いてるんじゃないの。」
「俺は枡川さんみたいに面白いこと出来ないので。」
「……これは怒って良いところだよね?」
面白いことってなんだ。
不服に告げても、前を歩く猫背気味の背中はクスクスと愉快に声を出している。
「…瀬尾。」
「ん?」
「瀬尾は、なんで、私と明野さんのこと知ってたの…?」
"そういえば、瀬尾はどうして
一樹が私の元彼だって知ってたんだろう。"
ゆっくりしたペースで2人歩く中で、私は今日ふと感じた疑問をなんとなく背中にぶつけた。
すると急にピタリ、前を歩く男の足が止まった。