君と私で、恋になるまで



振り返る気怠い男は、その綺麗な瞳に私を閉じ込めてくる。


「……知りたい?」

「…い、いや、やっぱり良い。」


やけに扇情的なロートーンも、熱を封じ込めた瞳も、先ほどの自分の"浮かれました発言"で力を使い果たした私には刺激が強い。くらくらしてしまう。


火照る顔はそのままにブンブンと首を横に振るのに、「どっち。」なんてあどけなさを垣間見せる男の笑顔に、翻弄される。



そして笑顔を見つめて油断していた私をあっという間に引き寄せた男は、


「___っ、」

カプリ、まるで噛みつくようなキスを唇に落としてきた。


此処は外で、人だってそんなに多く無いけど勿論歩いていて、というか何故急に、

なんてモラルを頭に並べるけど、その鋭い瞳の奥に私が映ってると至近距離で確認すれば、そんなものは意味を為さない。



「……俺が、お前をずっと好きだからだよ。」

「っ、そ、それ理由になってる…?」


なってるなってる、とゆるい笑顔でそう言う瀬尾は、先ほどの獲物を狙うような鋭さをとっくにしまい込んでいる。



「……あのさ、お願いがあるんだけど。」

「なに……、」


今日の瀬尾は、お願いごとが多い。


私が頑張るタイミングを教えてとか、

好きな食べ物を教えてとか、

最後に"彼氏なので"と付けながら結局私のためな気がするそれらを言われてしまえば、こちらは胸がぎゅうっと掴まれる。



もっと瀬尾自身がしたいこと、聞きたいのに。

私だって"彼女なんだから"。

そう心では思っても口に簡単に目の前の男みたいには出せない。


ヘタレを極めている私の成長速度は、あまりに遅い。
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