君と私で、恋になるまで


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「………なに?」

「え、何が?」

「……何をそんなニヤついていらっしゃる?」

「別に?」


いつもの昼休み。

オフィスのあるビルから歩くとそれなりに距離のある、定食屋さんにやって来た。

夜も居酒屋として営業している此処は、なかなかに哀愁のある店内で、ランチも年配層が多い。


私がネットで見つけて、行きたい!と目を輝かせているのを、亜子は全く光の無い瞳で一瞥して「は?心惹かれないんだけど。」と言っていたくせに。


いざ一度行ったらとても美味しくて、「まあ悪く無いんじゃない」と宣ったこの女は本当、何様なんだ。

…それでも結局いつも一緒に行ってくれるから、私は嬉しいのだけど。



運ばれて来た煮魚定食を前に、亜子はさっきから私を見てニヤニヤしている。



「ねえ、何!?」

「えーーーだって、明日デートなんでしょ?」

「、」



今日は、金曜日で。

ということは明日は、土曜日で。


今週の初め、あの気怠い男から

《今週の土曜、空いてる?》

とメッセージが来た時、私は顔が緩むのを隠すのが大変だった。



「ドヘタレだから、休日デート初めてなんでしょ?」

「……その前半部分は必要だった?」

「………で?」

「?」

「どこ行くの?」

「……ど、どこだろう?」

「はあ?」


怪訝な女の声が、賑わう店内に溶けた。

お味噌汁のほわっと優しい香りが掻き消されてしまいそうだ。


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