君と私で、恋になるまで
_____________
_____
「………なに?」
「え、何が?」
「……何をそんなニヤついていらっしゃる?」
「別に?」
いつもの昼休み。
オフィスのあるビルから歩くとそれなりに距離のある、定食屋さんにやって来た。
夜も居酒屋として営業している此処は、なかなかに哀愁のある店内で、ランチも年配層が多い。
私がネットで見つけて、行きたい!と目を輝かせているのを、亜子は全く光の無い瞳で一瞥して「は?心惹かれないんだけど。」と言っていたくせに。
いざ一度行ったらとても美味しくて、「まあ悪く無いんじゃない」と宣ったこの女は本当、何様なんだ。
…それでも結局いつも一緒に行ってくれるから、私は嬉しいのだけど。
運ばれて来た煮魚定食を前に、亜子はさっきから私を見てニヤニヤしている。
「ねえ、何!?」
「えーーーだって、明日デートなんでしょ?」
「、」
今日は、金曜日で。
ということは明日は、土曜日で。
今週の初め、あの気怠い男から
《今週の土曜、空いてる?》
とメッセージが来た時、私は顔が緩むのを隠すのが大変だった。
「ドヘタレだから、休日デート初めてなんでしょ?」
「……その前半部分は必要だった?」
「………で?」
「?」
「どこ行くの?」
「……ど、どこだろう?」
「はあ?」
怪訝な女の声が、賑わう店内に溶けた。
お味噌汁のほわっと優しい香りが掻き消されてしまいそうだ。