君と私で、恋になるまで






"分かった。休日なのに、お疲れ様。"


「………ごめんなさい。」


"何で謝んの。"


半分、というかもはや全部泣きそうな声でそう謝罪を告げても、電話越しのロートーンは穏やかなままだった。

だけどそれが更に、申し訳なさを増幅させる。


「…映画のチケットも、買ってくれてたのに。」


"うん。いーよそんなん。"


「良くない、ちゃんと返金するから。

それか古淵とか誘って行ってきて…」


"なんの地獄なの?"


「…だって……」


"そんなことより、早く準備して?

ちゃんとヘルメットも被って行けよ。"


「あのね、ヘルメットは現場での安全管理のために被るの。家から被んないから!!」


"えーそうなん、似合うのにな。"




この男は、私がスーツにヘルメット姿で駆け回るのを、香月さんの案件で一緒になった時は、何故かいつも楽しそうに見ている。


「こんなにヘルメット似合う奴いるの?」と軽快にそれを叩きながら聞かれたこともあるくらいだ。
凄く良い笑顔でそれもまた心臓に悪かったけど、たぶん馬鹿にしている。




電話越しにクスクスと楽しそうな笑い声が、鼓膜を揺らす。


全然、これっぽっちも責めたりしない。
当日のドタキャンなのに。

行って来いって、
この人はそう言って、見送ってくれる。



____嗚呼、やっぱり今日、会いたかったなあ。



スマホを耳に当てて、チラリと昨日買った服を見つめつつ、そう思う気持ちをなんとか振り切った。



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