君と私で、恋になるまで
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「……アポ無しで来てしまった…、」
とある、デザイナーズマンションの前で私はそう声をこぼす。
初めて訪れた時、外観からも伝わるモダンでスタイリッシュな空間の使い方に驚いたのを思い出した。
「此処、すごく高いのでは」と震える私に、大学の先輩が設計に関わっているから、割安で貸してもらっている、と言うリアルな話を少し悪戯な笑みと共に教えてくれた。
一歩踏み出せば、コツ、とアスファルトを鳴らせるのは、私が履き慣れたヒール2.5㎝のパンプス。
服装はいつものスーツ、
バッグだって会社用の使い古したもの。
予定とは、全く違う。
亜子が選んでくれた
Aラインのフォーマルワンピースも、
ちょっとだけカジュアルなクリア素材のバッグも、
私にしてはちょっと挑戦な、踵の高い靴も。
全部、家に置いて来てしまった。
本当に、予定とは全く違う。
でも。
私は本当に、今日はどこでも良かった。
あの男は、たぶん絶対言わないけど、
例えば、“山登りへ行く“って言われたとしても。
__休日に「デート」って言葉で瀬尾に会えるなら。
とりあえず急に押しかけるのも、と思い、男へ電話をかける。
「……出ない。」
やっぱり古淵とか、誰かと出かけてしまっているか
な。
それを確認してから此処まで来るべきだったと、やけに無情に聞こえる発信音を聴きながら、今更当然のことを思う。
だけど、今日は止められそうに無かった。