君と私で、恋になるまで
暫く歩いて、再び駅まで近づいて。
「家にお酒とかつまみ無いけど。どっかで買う?」
本当になんてことないトーンでのらりくらり提案してくる男が居るけど、私はそれどころではない。
「瀬尾、ちょっと待って。」
「…顔、赤。」
誰のせいだ。
「……ひ、一目惚れって何…、」
そう指摘すれば、案の定だと悟っていたような、少し気まずそうな瞳が月明かりで綺麗に光る。
「……俺の彼女は、なんか愛が重いとか言ってたけど。」
____"…瀬尾。
私、瀬尾への好きは相当重いんだよ。"
「俺は、入社式で出会って直ぐに枡川さんに落ちてしまってるので、見くびらないで欲しいですね。」
細まった目で、気怠く告げる男は諦めたように笑う。
「いつから好きなんて、忘れたって言った…」
「皇先輩の前で言えるわけ無いだろ。」
「ちゃんと話したの、入社式の後の飲み会だよね…?
私あの時、食べてしか無かったけど。」
「うん。まじでお前はつまみばっか食ってたな。」
思い出してやっぱり笑う男は、甘い手つきで私の髪を撫でた。
「…瀬尾は、変わった趣味してるんだね。」
素直に嬉しいって言えば良いのに、もう思いがけない言葉ばかり与えられて身体の火照りが止まらない私にはそれは難しい。
というか、つまみばかり食べてる女を好きになるのは普通に変わっている。
「うん。悪い?」
それでも、口角をきちんと上げて、そのまま私の首に腕を回して見下ろす男には敵わない。
「……とても、幸運でした。」
降参して眉を下げて笑えば、満足したように瀬尾も笑って、1つ軽いキスをくれた。
episode03.「高らかな宣言」
いつから好きだったか、なんて。
誰がそんなの言うかよって誤魔化したのは
自分の気持ちの重さを
知られたく無かったからなのに。
何を思ったか、急に電話越しに
愛を語ってきた女のせいで
もうどうでも良くなった。
"馬鹿だなあお前。
そういう部分が枡川さんにとっては
嬉しいこともあるのにさあ。"
俺の格好悪いくらいに呆気ない、
だけど手放せない恋の始まりも。
こいつが真っ赤な顔で笑ってくれるなら
ちょっと悪く無いかなとは思ったりする。
「…ちひろ、今日の飲み会
男しか居なかったけど。」
「!?」
「あのゼミ、男が殆どなんだよ。
あと俺は、お前しか可愛くないから。」
何で早く言ってくれないの。
と睨む様さえも可愛いのでとっくに重症だ。
"____央。2次会は、行かないで。"
なんか、もう一生行かなくても良いわ。
fin.