君と私で、恋になるまで
入社式でのことは知らなかったけど、その後の飲み会で私達がきちんと初めて対面を果たした時。
同期女子の間で、「なんかアンニュイな感じでめっちゃ格好いい、外見圧倒的優勝」と飲み会前にも話題になっていた男は、確実に私の隣の女に釘付けだった。
すんごい低燃費な恋愛してきてそうなのに、私はその男の態度がやけに分かりやすくて、可笑しかったのを覚えている。
"島谷 亜子です。…瀬尾君、私のこと見えてた?"
そう言えば、無遠慮に顔を歪ませてきて図星だと告げている顔にも、笑えた。
でもちひろには、その頃彼氏が居たし。
特に話が進むことも無いか、残念だなアンニュイ男。
そう思っていたけれど、あの宿泊研修の最終日にそれは少しだけ、変わった。
あまり彼氏と上手くいっていないというのは、チラリと私もちひろに聞いていたけど、それを誰かに告げることは勿論無く。
だけど、この男はあの日、自分から"枡川は彼氏と何かあるのか"と尋ねてきた。
この、私に。
自分でも、同じようなタイプで近づきたく無いと確実に理解しているであろう、私に。
だから。
この男には千歩くらい譲って、ちひろのことを慰める役を代わりに任せてやっても良いかな?なんて。
ほんのすこーーーーしだけ、そう思ってしまった。
「…キューピッドは、どう考えても私だわ。」
アホな古淵とは重みが違う。
本当になんの脈略も無く1人で頷いて呟いた言葉に、パスタを食べながら3人とももれなく「は?」という間抜け面をしていて、それにまた笑えた。