君と私で、恋になるまで
第一希望にしていた、業界でも大手オフィス家具メーカー。
別に家具が好きな訳でもなんでも無いけど。
オフィス家具メーカーって言うくらいだからオフィスも綺麗だし、色んな企業を見てる中で福利厚生が充実しているな、と思っただけだった。
一人暮らしをする中で家賃補助だとかそういう部分は、企業を決めるのには充分な要素になる。
そうして二次面接を兼ねたグループワークに参加した時。
会場に入って決められた席に座るとほぼ同時ぐらいに、黒のリクルートスーツの女が座った。
何となく視線を上げると、はっきりした目鼻立ちの綺麗な顔が目の前にあった。
無表情のそれは美人だけどやけにクールに見える。
"亜子、社会人になるんだからもうちょっと愛想良くしなよ。"
就活なんて所詮、蹴落とし合いみたいなものだから深く付き合うつもりは無いけど、まあ初めから態々印象を悪くする必要も無いか。
私は何となく友人達の言葉も思い出して、珍しく微笑みを女におくった。
すると。
女は私の笑顔を見た瞬間、ふわっとその表情をあっさり崩し、
「こんにちは、枡川 ちひろです!」
ハキハキとした声で私に話しかけてきた。
…え、笑うとそういう風になる感じ?
呆気に取られて拍子抜けする私に全くお構いなしに、「このグループワーク何時までなんだろう、お腹空くよね。」なんてへらりと笑って言う彼女に目を瞬いた。
何というか、こんなに邪気の無い人間も珍しいなとまだほぼ何も会話を交わしていないのに、そう思った。