君と私で、恋になるまで
会社のビルを出るまでも自分語りを止めない男に辟易としていた私が、なんとか撒こうと話しかけようとすると、
「今日ずっと島谷さんのこと気になってたんだけど、気付いてた?」
「………」
気付いているし出来ればそうで無いと願いたかったわ、とは言えず「へえ?そう。」と端的に告げて笑う。
「連絡先教えて欲しいんだけど。」
「…私、あんまりそういうのは簡単に教えない。お疲れ様でした。」
微笑んでその場を立ち去ろうとすれば、ぐ、と急に腕を掴まれた。
「…就活のモチベーションも特に無い、腰掛けだろ?」
「っ、」
私の揺るがない態度が癇に障ったのか、急に苛立ちを隠さなくなったジャガイモはそのまま吐き捨てるように告げる。
なんで、こいつにそんなこと言われないといけないの。
たしかに、別に立派な志望動機があるわけじゃ無い。
あんたみたいに暑苦しい熱意でこの会社を受けてる訳でも無い。
だからこそ。
"だから、島谷さんの志望動機は凄いと思った。"
あの女が何気なく言ってくれた言葉は、嬉しかったのかもしれない。
掴まれた手の力の強さに顔を歪めれば、
「____島谷さんの連絡先、多分私の方が知りたいと思う!!!!」
何処から現れたのか、そんなよく分からない言葉と共に私と男の間に割って入った女は、ジャガイモの腕を引き剥がして、私の手を取った。
そして。
「澤部くん、お疲れ様!!」
勢いのある挨拶をするや否や、私を引っ張って全速力で走り出した。
チラリと見えたジャガイモが、ポカンと蒸し終えたような顔をしていてそれがやけに笑えた。